株式会社 ミュー
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  自走式カプセル内視鏡(ヒレ型)のヒトへの応用  発表状況はニュースを参照ください。
未来型自走式カプセル内視鏡の開発およびヒトへの応用
株式会社ミュー代表取締役、龍谷大学名誉教授・大塚尚武 
龍谷大学理工学部機械システム工学科・西原弘訓教授のグループ 
大阪医科大学第U内科学教室・樋口和秀教授のグループ 
 概 要 
◇日時:2011年6月21日(火)10:30〜11:30

◇場所:大阪医科大学内新講義実習棟1階 P101号室
(大阪府高槻市大学町2番7号 電話072-683-1221代表)

◇説明者: 龍谷大学・株式会社ミュー3名
大塚尚武株式会社ミュー代表取締役、龍谷大学名誉教授 (プレゼンター)
西原弘訓理工学部教授
進藤康則理工学部実験講師

大阪医科大学2名
樋口和秀内科学第U教室教授 (プレゼンター)
梅垣英次内科学第U教室准教授

◇公開実験に使用する主要装置:
・磁場発生・制御装置(龍谷大学自製)
・ヒレ型マイクロマシン(龍谷大学自製)
・カプセル内視鏡(Given Imaging社製PillCamSB2:大阪医科大学所有)
・リアルタイムモニタ装置(Given Imaging社製RAPIDAccess RT: 大阪医科大学所有)
 研究開発の背景 
通常使用されている胃カメラや大腸カメラなどチューブ式内視鏡の検査時に伴う患者の苦痛を軽減するため、新しいコンセプトによる検査法としてカプセル内視鏡がイスラエルのギブンイメージング社(Given Imaging Ltd.)で開発されました。この検査法は錠剤タイプのカプセル内視鏡を飲み込むだけで、内蔵した超小型カメラにより消化管の内部を撮影し、その映像を体外に無線送信できるので患者の苦痛を伴わず(非侵襲的に)検査診断を行うという画期的な方法です。このカプセル内視鏡は2001年に米国食品医薬局(FDA)で使用が認可された後、わが国では2007年10月に同社のPillCamTM(直径11 mm, 長さ26 mm)が、また2008年10月にはオリンパス(Olympus Medical System)社のENDO CAPSULETMが保険適用となり、世界中で100万件以上の使用実績があるまでになっています。
しかしこの優れたカプセル内視鏡は、現時点では小腸の検査として臨床応用されておりますが、胃カメラや大腸カメラの代わりはできません。さらに、自走できず消化管内では食物の場合と同じ蠕動(ぜんどう)運動によって移動するので、任意の位置に移動し任意の方向から観察することができないという問題点があります。また、カプセル内視鏡の撮影やデータ送信に消費される小型電池の能力の制限から全消化管を一度に検査できないなどのいくつかの問題があります。
これらの問題を解決するため大塚は龍谷大学在職中、ヒトにやさしい消化管内視鏡検査につき、自走式カプセル内視鏡と磁場装置の開発に取り組み、さらに大阪医科大学との共同研究により2009年に生体内(犬)での可動・撮影実験に成功し、国際専門雑誌に発表しました。その後、さらなる改良を加え、人体への応用を目指し研究を続けてきました。大塚は2011年3月に大学を定年退職後、自走式カプセル内視鏡の実用化を主な目的に株式会社ミューを起業し、龍谷大学と大阪医科大学との共同研究を続けています。そして2010年にヒトでの可動・撮影実験に成功し、この成果を2011年5月7・8日に米国シカゴで開催された世界最大規模のDDW(米国消化器病週間)国際会議において学術発表いたしました。また、同学会のプレスカンファレンスでも取り上げられ注目を集めました。
 開発した装置の概要 
自走式カプセル内視鏡に必要な条件として、カプセルを動かすための動力を非接触で供給し、この動きを簡単な方法で遠隔制御できることや、小型軽量化のため構造が簡単であることなどが必要となります。これらの制約条件を満たす方法として私達が開発した装置は磁力を利用する方法を採用しています。この自走式カプセル内視鏡の動作原理を図1にアニメで示します。
この装置の概要を写真1に示します。この装置では、波形発生・制御装置により発生した交流電流を大型電磁石に流します。すると、この磁極の間には交流の磁場が発生するので、ここに置いた水槽の中に、小型磁石とヒレを組み合わせたマイクロマシンを入れると、磁石が振動してヒレを動かし、魚が泳ぐように進むことができます。また制御装置のジョイスティックを動かすことにより交流波形を変化させることができるので、マイクロマシンが動く速さや方向を自由に変えて運動をコントロールすることができます。このマイクロマシンに既存のカプセル内視鏡を取り付けたものが自走式カプセル内視鏡(Mini Mermaid, MM1)となります。生体実験に用いた自走式カプセル内視鏡の直径は12mm、ヒレを含む長さは45mmです。生体実験に用いた自走式カプセル内視鏡を写真2に示します。
胃内でこの自走式カプセル内視鏡を動かす場合は、水を飲んでこの中を泳がせることになります。また自走式カプセル内視鏡の現在位置や姿勢は、カプセル内視鏡が撮影し体外に送信したリアルタイムの画像でモニターできるので、ジョイスティックを動かして移動させることができます。
図1 自走式カプセル内視鏡が動く原理
三角形の再生ボタンをクリックするとアニメを見ることができます。
写真1
自走式カプセル内視鏡を動かす装置の概要
写真2
自走式カプセル内視鏡(MM1)
 生体実験の概要:胃 
●ヒトに対する前処置
実験開始2時間前に、ポリエチレングリコール溶液を2000 ml 内服します。さらに自走式カプセル内視鏡(MM1) を内服する直前に、水500mlを内服します。
●自走式カプセル内視鏡の動きを自在にコントロールできることの確認
ヒトがMM1を内服する前に、電磁石に交流電流を流し磁場を発生させることによって水槽内でMM1 が自由自在に動かすことのできることを確認します。また、カプセル内視鏡が撮影した画像を見ながらジョイスティックを動かすことによってカプセル内視鏡が動く速さと進行方向を胃内で自在に遠隔操作できることを確認します。
写真3 水槽内を自走するMM1
画像をクリックすると動画を見ることができます。
●ヒト生体内での可動・撮影
ヒトは電磁石の磁極の間に入り、まず半坐位で水と共に自走式カプセル内視鏡(MM1)を嚥下します。ヒトでのMM1の内服は問題なく行われ、MM1は食道内より胃内へと速やかに移動します。
(1) 大腸実験時の状況 (2) 胃実験嚥下前のMM1 (3) 胃実験時にMM1を嚥下する状況
画像をクリックすると動画を見ることができます。
 写真4 生体実験の様子
電磁石に電流を流して磁場を発生させ、外から与えている磁場が胃内で小型カメラの撮影や画像の送受信に悪影響を及ぼさず、カプセル内視鏡の撮影画像が体外のモニター画面上に乱れることなく正常に表示されることを先ず確認します。
その後、臥位となり、以下の体位変換も併用しながら、胃内でMM1を磁場の力で動かします。
なお胃内に挿入した通常上部消化管内視鏡により、自走式カプセル内視鏡(MM1)の動きを撮影しました。
(1)左側臥位
噴門部(水面観察)
穹窿部から胃体部全体の観察(水底観察)
(2) 背臥位
体下部、胃角部から前庭部の観察(水面・水底観察)
(3) 右側臥位
前庭部〜幽門部(水面・水底観察)
(1) 穹隆部 (2) 胃体部
画像をクリックすると動画を見ることができます。
(3) 前庭部
写真5 MM1が撮影した胃の画像
●実験結果のまとめ
自走式カプセル内視鏡(MM1)は、カプセル内視鏡と同様に飲み込む事が可能であり、ヒト胃内で胃壁を傷つけることなく、体外操作にて磁場を用いて自由自在に胃内を動かすことが可能であった。
 生体実験の概要:大腸 
●ヒトに対する前処置
実験開始4時間前に、ポリエチレングリコール溶液を2000 ml 内服します。
一般的な大腸内視鏡検査と同様に便がきれいになるまで待ちます。
●自走式カプセル内視鏡の動きを自在にコントロールできることの確認
胃での実験と同様に、自走式カプセル内視鏡(Tall Mermaid、TM1、直径12mm、ヒレを含む長さ65mm)を大腸内に挿入する前に、電磁石に交流電流を流し磁場を発生させることによって水槽内でTM1 が自由自在に動かすことのできることを確認します。
写真6 自走式カプセル内視鏡(TM1)
●ヒト生体内での可動・撮影
ヒトは電磁石の磁極の間に入り、まず左側臥位となります。オーバーチューブを挿入し、TM1 を直腸へ挿入します。大腸内視鏡を用いてTM1 をS状結腸に留置し、その後、大腸内へ挿入したチューブから水1000mlを注入します。腹臥位(腹ばい)へ体位変換します。
電磁石に電流を流して磁場を発生させ、外から与えている磁場が小型カメラの撮影や画像の送受信に悪影響を及ぼさず、カプセル内視鏡の撮影画像が体外のモニター画面上に乱れることなく正常に表示されることを先ず確認します。
カプセル内視鏡が撮影した画像を見ながら、ジョイスティックを動かすことによってTM1を磁場の力で動かします。
S状結腸→下行結腸→脾彎曲部→横行結腸(中部付近まで)と撮影しました
(1) S状結腸 (2) 下行結腸
(3) 脾彎曲部 (4) 横行結腸
写真7 TM1が撮影した大腸の画像
●実験結果のまとめ
自走式カプセル内視鏡(TM1)は容易に大腸内に挿入し、大腸壁を傷つけることなく体外操作にて磁場を用いて大腸を観察することが可能であった。
 公開実験の概要:模型内実験 
中が見れるように上部を開口した胃模型内および小腸を模擬した曲管内をMM1およびTM1が動く様子を公開実験します。
(1) 胃模型内を移動するMM1
画像をクリックすると動画を見ることができます。
(2) 小腸を模擬した曲管内を移動するMM1
画像をクリックすると動画を見ることができます。
写真8 公開模擬実験の様子
 おわりに 
今回ヒトに応用した自走式カプセル内視鏡(MM1, TM1)は、ギブンイメージング社製のカプセル内視鏡PillCamTM SB2にヒレ付きソケットを装着して、磁場の力で生体内を自由に移動させる事が可能となりました。
構造が非常に簡素で安価に作成することができるので、近い将来の臨床応用時に不可欠となる使い捨て用途に十分対応可能です。また装着するソケットの大きさを変えるだけで、あらゆるカセル内視鏡に対応することができます。さらに体外から与える磁場によって駆動するので、駆動時に熱の発生は無く、駆動時間の制限はありません。使用する磁場もMRI検査時に浴びる磁場の強さと比べると格段に弱く、人体に影響を及ぼさないと考えられます。
これらのことから、私たちが開発した自走式カプセル内視鏡は消化管を検査するカプセル内視鏡の駆動方式として理想的なものであるといえます。近い将来、この自走式カプセル内視鏡にさらに改良を加えることによって全消化管を検査することができるようになると考えています。
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